剧本角色
天宮
男,0岁
天宮
木下
男,0岁
木下
天宮: おおいぬ座、シリウス。 こいぬ座、プロキオン。 オリオン座、ベテルギウス。…特に変わった点は見られないな。 いつの間にか木下が横に立って双眼鏡をのぞいている。仕事の帰りか、カバンを持っている。
木下: わあ、キレイ! やっぱりここから見える星は格別ですね!
天宮: またお前か、町役場。
木下: 町役場、じゃなくて木下です。そんなに嫌そうな顔しないでくださいよ、天宮さん。
天宮: 毎日仕事帰りにご苦労様です。よっぽど暇なんだなうちの町役場は。
木下: 平和だってことですよ。
天宮: おかげで毎日そのうるさい声を聴く羽目になっているわけだ、俺は。
木下: 女の子にそういうこと言っちゃダメです、モテませんよ。
天宮: 望んでない。
木下: そうですね、天宮さんは星しか見てませんもんね。
天宮: 天文学者が星を見るのは当たり前だろうが。
木下: まあそうなんですけど…(と双眼鏡をのぞいて)さっきのって冬の大三角形ですよね。
天宮: 小学生でも知ってる。で、今日は何だ。
木下: 例のお話のお返事を聞きに来ました!
天宮: ああ、それか。
木下: 今日こそ良いお返事をお願いします。
天宮: (はぐらかして)…そういえば、明日新しい番組を投影するんだ。解説のチェックしておかないと。
木下: え、新作ですか?
天宮: ああ、爺さんが残した資料を整理していて見つけたんだ。
木下: 館長さんの?
天宮: 半年前に爺さんが死んでからなかなか手が付けられなかったんだけど、やっとな。
木下: 急でしたもんね…
天宮: 遺言の中に鍵が入っててな、その引き出しを開けたらこれが入ってた。「上演よろしく」ってメモと一緒に。
木下: へえ、いいなあ。いいなあ。私、ここのプラネタリウム小さいころから大好きなんですよね。
天宮: チェック中、黙っていられるなら見せてやってもいい。
木下: 本当ですか?やったあ!
天宮: ただし、条件がある。見終わったら館内を
木下: 掃除しろ。ですよね。わかってます。
天宮: なにぶん人手不足なんでね。
木下: スタッフ雇えばいいのに。
天宮: そんな余裕はない。お前知ってて言ってるな。
木下: 新作、なんてタイトルなんですか?
天宮: ああ、確か『星は嘯(うそぶ)く』夜空に星がきらめく。通り過ぎていく人、人、人。星が生まれて、消えていく。天宮が気づいたときには、星は消えてしまった後。
木下: おおいぬ座、こいぬ座、オリオン座。星の輝きは、はるか昔に輝いた光が遠い遠い地球に何光年も旅をしてたどり着いたものだそうです。昔の人は、この光の位置をいろんな形に見立てて星座を作ったと言われています。もしかしたら、星座の形には何かのメッセージが込められているのかもしれません。ずっと昔に星がささやいた、地球への言葉なのかもしれません。
プラネタリウム館内。木下が掃除をしている。天宮は機材をチェックしている。
天宮: おい、ぼーっと突っ立ってないで手を動かせ。
木下: ああ、素敵でしたねえ。星が生まれてから消えるまで。私、天宮さんの解説大好きなんですよ。「今私たちが見ている星の光は何万年も前に輝いた星からのメッセージなのです。」なんてロマンチックだと思いません?
天宮: 星の輝きはただの核融合だぞ。
木下: え、そうなんですか?
天宮: 詳しく言えば、宇宙にあるガスが重力によって球状を形成し、ガス中の水素などによって核融合を起こした時の高エネルギーによる発光だ。
木下: なんか微塵のロマンもないですね、それ。
天宮: ちなみに、自ら発光できる星を「恒星」という。もっとも身近な恒星は太陽だ。地球からの距離やエネルギーの大きさによって星の輝きの大きさにも違いが出るが、オリオンの一等星であるベテルギウスは…
じっと天宮を見ている木下。それに気づいてうろたえる天宮。
天宮: なんだ。
木下: いや、天宮さんて星のことになるとよくしゃべるんだなあって。
天宮: 悪いか。
木下: いえ別に。あー、私も星になれたらいいのに!
天宮: …自殺願望か?
木下: 違いますよ!どうしてそうなっちゃうかな、天宮さんは!
天宮: 言っている意味がよくわからない。
木下: いいです、なんでもないです。
天宮: そうか。
木下: (ため息)…明日たくさんお客さん来ると良いですね。
天宮: 来ないだろ。もともとそんなに客足が多い方じゃなかったが、最近はひどいからな。
木下: あれのせいですか?
天宮: だろうな。もう半年になるんだから根強いもんだ。
木下: たしか、町の七不思議に登録されたってこないだテレビで見ましたよ。
天宮: ばかばかしい。何が七不思議だ。
木下: お客さん、増えたのかと思ってました。
天宮: 増えたには増えた。が、冷やかしと変なのばかりだ。客と呼べるものじゃない。
木下: 変なのって?
天宮: オカルトマニアに霊能力者、エクソシストなんてのもいたな。インターネットで人気らしいぞ、うちのプラネタリウムは。本当にいい迷惑だな。
木下: 商店街でもよく聞きます。「あそこのプラネタリウムには幽霊が住みついてる」って。そんなこと、あるわけないのに。
天宮: いたらどうする。
木下: え?
天宮: 実際に原因不明の地響きは起きてるじゃないか。ポルターガイストっていうんだろう?
木下: 今日はなかったじゃないですか
天宮: 幽霊が落ち着いたんじゃないのか。
木下: やめてくださいよ。ホラー苦手なんですから!
天宮: ホラー苦手なくせによくここに来るよな。
木下: う…、私は幽霊とか信じてませんから。
天宮: はいはい。まあ、この方が静かでいい。オカルトマニアさえ追い出せばあとは気楽なもんだ。
木下: 天宮さん! 私、ここが無くなっちゃうなんて嫌ですよ。
天宮: このまま客が戻らなかったら、いつかはそうなるだろうな。
木下: だから、役場の観光プロジェクトに協力してくださいって言ってるんですよ!
天宮: そういえば、そんな話もあったな。
木下: 私は、毎日、その話をしに来てるんです!!
天宮: そう怒鳴るなよ。騒々しいやつだな。
木下: すみません。
天宮: ここは、建物も設備も古い。直すにも金が要るがそんな余裕はない。これをどうするつもりなんだ?
木下: それは、その…助成金を、ですね…
天宮: 出るのか?ここは有名なポルターガイストプラネタリウムだぞ。役場が手を貸すと思えん。
木下: うう…
天宮: 不動産屋にも売ってくれって言われてるしなあ。
木下: なんですかそれ。
天宮: プラネタリウムを併設したホテルリゾート計画があるんだと。
木下: え、初耳です。まさか、天宮さん…
天宮: 売るわけないだろうが。爺さんの形見だからな。閉館したとしても手放しはしないさ。
木下: ああ、よかった!でも私は諦めてませんから。
天宮: 勝手にしろ。