电话铃声
通話する千佳と瀬川。
千佳: お忙しいのにすみません。
瀬川: 気にしないで。文字だと伝わりにくい話もあるよね。
千佳: この前、お友達が介護のお仕事されてるって…。
瀬川: あぁ、高校の時のね。
千佳: 私もそっちに興味が出てきて、お話を伺ったり出来ませんか?
瀬川: 大丈夫だろうけど、大丈夫かな…?
千佳: え?
瀬川: とりあえず確認しとくね。
千佳: ありがとうございます。
■■■喫茶店②
須藤、喫茶店のテーブルに着いている。
辺りを見回して、須藤に近付く。
千佳: 須藤、さん、ですか?
須藤: あ、はい。瀬川の?
千佳: ありがとうございます。今日はお時間頂いて。
須藤: 大丈夫ですよ。瀬川とも近々会おうって話はしてたんで。あ、どうぞどうぞ。
千佳: 失礼します。
千佳、着席。
須藤: 注文します?
千佳: 瀬川先生が来てからで…。
須藤: 瀬川先生かー…。ホントに先生だった?
千佳: 国語を教わりましたけど…。
須藤: えー、作者が込めた気持ちを読み取りなさい、みたいな? それこそ瀬川自身あん
まり自分の気持ちを見せないのにねぇ。
千佳: 理性的な印象はありますね。大人の女性って感じの。
須藤: そういうふうに思われたいんだろうねー。気にしいだからねー。
千佳: そうなんですか?
須藤: 愛嬌のない八方美人。八方向どころか全方向。全方向美人。え、ヤダあいつを美人なんて言いたくない。狡猾な奴ですよ! …狡猾って、天然じゃなくて計算って事?
千佳: ズル賢い、とか。大抵は敵に向ける言葉じゃないですかね…。
須藤: ふーん。あ、今、瀬川に国語を教わった人から国語を教わったよね、私? わー、ショック…。
千佳: …えーっと。
須藤: 相談する相手、間違ったって思ってない?
千佳: そんな事ないですよ。お会いしたいと思ってたんで。…瀬川先生とは?
須藤: 高校からのやんちゃメンバー。
千佳: よく会うんですか?
須藤: ちょくちょくね。とはいえ、会っても上司ウザいと結婚したいのヘビロテ。
千佳: 結婚したいんですか?
須藤: やりたい事もあるし、もうちょい後でもいいかな、結婚。そう思う20代前半。そして後半、…おやどうした? 飲み会で姐さんと呼ばれ始める。でも飲むのも人と話すのも楽しいから良し。なんて言ってる内に体調が怪しくなってくる。走れない。オールきつい。微熱引かない。脳内で語り掛けるもう一人のー。気にかけてくれる人がいないぞー」。
千佳: いますよ、きっと。
須藤: 何処に?
千佳: …何処かに。
須藤: 母性を求めて面倒を見られたいおこちゃまクソ野郎ばかりが忍び寄ってくる。
千佳: 怖いですね。
須藤: 私の時間を奪って、人生の歩みを滞らせた妖怪。
千佳: 付き合ったんですね。
須藤: 妖怪…ども。
千佳: 複数いたんですね。
須藤: あいつらも、他にいれば私じゃなくても良かったんだろうな…。
千佳: …。
須藤: 覚えておいて。これが、アラサーの焦りよ。
千佳: …アラサーの、焦り。
須藤: 四捨五入したらもう30なんて言う奴にはまだ余裕がある。四捨五入しなければまだ30じゃないから。しかしいずれ四捨五入をせずとも30になり、30を越えていく。越えてから再び口するの、アラサーと。30前後を匂わすの。越えてからね。越えてから前後の前のイメージを強調したくなるの。
千佳: それは…。
須藤: 覚えておいて。これが、アラサーの足掻きよ。
千佳: …アラサーの、足掻き。
須藤: よっぽど仕事・趣味が上手く行くか円満な家庭に入るでもない限り、焦りと足掻きからは逃れられない。
千佳: 上司ウザいと結婚したいのヘビロテなら、瀬川先生も…。
須藤: 補足致します。「上司ウザい」「結婚したい」、共に私が担当しております。瀬川美穂につきましては、それを右から左へ受け流す担当となっております。
千佳: なるほど…。
須藤: 介護職希望なんだよね? 何か切っ掛けが?
千佳: 私、割と母親が年齢いってからの子どもなんです。今もう60近くて。10年後は70。先を考えると…、
須藤: 結城さん、あなたとてもいい子なの? 私は貴方を産みたかった。面倒見て欲しかった。…家族はねぇ、途惑う部分も多いみたいだよ。親とか、自分より上に思えてた相手が、それまでと様子の違う発言や行動を始めると。
千佳: 須藤さんは、どうですか? ご家族がそうなったら。
須藤: どうするんだろうね。割り切れないかもねぇ。
千佳: …確実に狂ってるなら、いいんじゃないですかね。
須藤: ?
千佳: 狂ってるのが確実なら、そういうものだと思えば。だって正常じゃないんですから。
須藤: そこはさ、正常だった時を基本に考えたくなるでしょ?
千佳: …。
須藤: 飲み込めてないかな? 何か安心した。結城さんすごい達観してて、私が教える事なんてないかなって思えたから。ゆっくりでいいんだよ、ゆっくりで。
■■■喫茶店③
瀬川、入室。
瀬川: お待たせしました。…一緒にいるのは予想外だった。
須藤: おーそーうぃー。
瀬川: 別にあんたと早く会いたいと思ってないから。
須藤: 照れ隠すぃー。
瀬川: …。
須藤: 結城さん、あんたの生徒にしとくのは勿体無いね!
瀬川: 既に卒業済み。今はもう私の生徒じゃないよ。
須藤: 見捨てた! 薄情ー。
瀬川: 人聞きが悪い。
須藤: 悪くしたい。
瀬川: 須藤から余計な話聞いてない?
千佳: …多少。
須藤: 美人だって話をね? 瀬川が。全方向に?
瀬川: …八方美人の拡大版?